以前、ある男友達にこの映画をお気に入りとして薦められました。
「大作もまぁいいけどさぁ〜、ミニシアター系もいいのいっぱいあるじゃん。
俺ってト○イみたいな人が何人死にました。
とかそういうのあんまり好きじゃないんだよね〜」
と、何だか知ったような口振りで言ってくれたので
「ふ〜ん、私はロード・オブ・ザ・リング大好きなんだけど…」
と、どちらかというと彼の好みでなさそうな、スペクタクルのある被り物系の作品を挙げたら
「え〜」
と言われ、そこで亀裂が走りました。
あのね、「ロード・オブ・ザ・リング」は人が何人死にました、とかそんなのを訴えてる映画じゃないのよ。
文句言うのは三部作観てからにしろい!
と攻撃しようかと思ったのですが、お互いを理解する為に、彼の紹介した作品もまず観てみることが必要だと思い、今回観ることになりました。
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リュック・ベッソン監督&ジャン・レノコンビのヒット作。出世作と言ってもいいのかな。
英語版「グレート・ブルー」を再編集してフランス語完全版です。
最初私はジャン・レノってこんな顔だったっけ?
と判りませんでした。何だか
エリック・クラプトンに似ているような。
丸眼鏡のせいだろうか?
あとこの話は、ダイバーとして有名なジャック・マイヨールをモデルにして描かれたそうですが、私はよく知らんです。
どちらにせよ、作品は作品として観るべきだと思いますから、この際あまり気にしないことにします。
さて、それはさておき内容についてお話しますと、
とにかく男達が競って海に潜る、潜る、何処までいけるか潜る。
潜ってたまに女と色恋沙汰起こして、でもやっぱり潜る。
非常に簡潔に言えばそんな話です。別に何も難しいことはない。
この潜る、というのがスキューバダイビングとは違って、素潜りで息をしないで水深100m以上の深海まで潜っていくフリーダイビングなのです。人間業じゃない。
しかしその地中海の青のコントラストが何とも言えず美しく、さまざまな色彩を帯びるブルーが映像として印象に残り、鑑賞者もジャックやエンゾ達と同じ様に海に魅せられるのです。
そしてイルカ達がとても可愛い。
冒頭で、少年時代のジャックとエンゾが登場し、ジャックの父が事故で死んでしまうシーンが描かれているのですが、それがモノクロの映像になっている分、その後の海の青さが引き立っています。
両親を亡くし、天涯孤独のジャックはイルカを家族と呼び、時にその事実に人として孤独を感じることもあるけれど、イルカと戯れていると時を忘れ、人間よりもずっとイルカと海は大切な存在であることが分かります。
だからエンゾからは人間じゃなく「宇宙人」と呼ばれている。
人間としてどこか危なっかしい、そんなジャックに都会のニューヨークの女性であるジョアンナが惹かれ、恋に落ちる。
最初は戸惑い気味だったジャックもジョアンナを愛するようになり、二人のロマンスが見られるのですが、
それでもやはり、ジャックは海に強く惹かれていて、時にジョアンナを忘れて置き去りにしてしまうシーンもあります。
それでもジョアンナは離れられず、彼と結ばれることを強く望んでいて結局妊娠までしてしまう。
しかし、その告白をしようと話を持ち出し、家庭を持ちたいと訴えるジョアンナにも、海に入ると全く耳を貸さなくなってしまう。
エンゾが彼を「宇宙人」と呼んでいたのはそういうところなのでしょう。
本質的に海で育って、海に生き、海で死んでいく人。
一見ジャックと対照的な親分肌で豪放磊落なエンゾもそれは例外ではなく、最後は「陸より海の方がよかった」と言って自分の愛した海に親友でライバルであったジャックの手によって還っていってしまいます。
そしてジャックも深い海の青とイルカ達の光景に憑かれ、ジョアンナを置いて「見に行く」と行ってしまいます。
「見に行く」というのは、深い深い海の底で会えると言われている「人魚」の事を指しているのだと思いますが、それは人魚の為に死んでもいいと思った時、愛を確かめにやってきた人魚に永遠に連れて行かれる、つまり死を意味することなのです。
だからお腹に彼の子がいるジョアンナとしては何が何でも止めたい、でも彼は意志を曲げない。
最後はジョアンナの手に任せ、彼女は「私の愛を確かめてきて」と彼を行かせてあげます。
ラストに彼は深海で「人魚」に出会います。
それはイルカの形をしているのですが、彼にとってそれが大いなる「愛」であり、「人魚」なんだと私は解釈しました。
深海に光射すところから暗い海へとイルカと行く、静謐なラストに見られるブルーは他のどのブルーよりも心に残る、まさに「グラン・ブルー」です。
しかしこの作品は女性の視点からしてみると、大分腹の立つところがあるのではないかと思います。
孕ませておいて自分は海に行って子どもはどうするんだよ、などと批判の声が聞こえてきそうです。
「子どもは女が育てるのよ」と作中で言われていましたが、
この映画はそういう男女の本質的な違いも描いているのだと私は思います。
女は陸で子どもを育て、あたたかい家庭を築く。
男は海の神秘に魅せられ、家庭を出て行く。
私はスキューバダイビングもサーフィンもやったことはないので、
海の底知れない魅力と怖ろしさは想像しか出来ないのですが、
マリン・スポーツをする人は、海という大いなる自然を恐怖心をなくしてあるがままに受け止め、感じることに意義を求めているのではないかと思います。
だから彼らにとって海で死ぬという事は何ら怖ろしいことではなくて、自然の流れにあるがままと受け止めている気がします。
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考えたら、この映画を薦めた野郎もサーファーだった。
だからきっとこの作品に共感したんだろうなぁ。
私はジャック達の生き方に共感はあまり出来ませんでしたが、
それでも海の魅力を伝えるにはまたとない、美しい作品だと思いました。
まぁ、それでもやはり「ロード・オブ・ザ・リング」は素晴らしい、という意見に全く変わりはないのだけれど。