観よう観ようと思いつつ、結局予定より一週間ほど先延ばしで鑑賞しました。
例によって思いっ切りネタバレしてます。
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まず、観終わった直後の感想。
…………怖っ!
お約束のハリウッド映画と違って、ハッピーエンドとは程遠い結末です。
要するにバッドエンドなので後味悪いと言えば悪いのでしょうが、
話自体はしっかり締められ、映画として完成しているので観た後にもやもやが残る不快な後味の悪さとはちょっと趣が異なります。
そういうのは嫌だなぁと思う人でも、スリリングな展開のうちに明かされていく隣人の驚くべき事実に画面から最後まで目が離せなくなること請け合いです。
でも、実は邦題通り隣人ではなく「お向かいさん」なのですが(笑)
ストーリーは冒頭から衝撃的で謎めいた事件から始まってぐいぐい話に引き込まれます。
ややホラー調なオープニングも個人的には好き。
主人公の隙だらけの行動やちょっと異常では…と思わせられる心理にツッコミ入れたくなるところはありますが、
そこが隣人の油断なさを引き立てていると思えばいいのかな。
ジェフ・ブリッジス扮する主人公は大学で米国のテロリズムを教えている教授で、男手一つで9歳の息子を育てている。亡くなった妻はFBI捜査官。
テロでも何でもない事件で妻は殺害され、息子と同様ずっとその過去を引きずっている。
だから主人公はテロを憎んでいる。
というのは解りやすいのですが、そこが彼の講義など随所で強調され、
結果として裏目に出てしまうことになります。
彼の講義を受けていた学生の中に、ブロンドの女学生がいて
ラストのインタビューでこう語ります。
「先生が授業の後に言っていた事が今でも忘れられません。
いつか思い知らせてやる。焼き尽くしてやるって」
実際に口にされたとは思えないですが、
この一言で、メディアも世間も主人公一人の単独犯なのだと納得してしまうという寸法です。
あの女学生もテロに参画していたのですね。
そうして組織立っての計画に利用された一人の人間とFBIはいともあっさり握り潰されるというわけです。
主人公が少々自業自得的に描かれている節も無きにしも非ず。
それ故か、この最悪な結末に一種の爽快感すら味わった人も少なくないのではないでしょうか。
私は俳優としてはあの『
ショーシャンクの空に』で主演していたティム・ロビンスの演技に期待していたのですが、
役柄としては奥さんのジョーン・キューザックの方が恐ろしかったです。
お向かいの人のいい奥さんから化けの皮が剥がれた時の表情の変貌がもう怖すぎ。
電話ボックスでブルックを追い詰めるシーンなんかはありがちですが、
あの仮面のような作り笑いが絶妙……
しかも、その後ブルックの死(勿論彼女達の仕業)を知って悲嘆する主人公の肩に手を掛けて痛ましげに見つめ慰めの言葉を掛ける。
そしてラストは「今度は静かなところがいいわ」という台詞で締め括られる……
奥さん、あんた完璧です。
少し前に『
ソードフィッシュ』をDVDで観ていたのですが、
主人公がひょんな事からテロに巻き込まれるっていう展開や
最終的に悪が勝利するというストーリーからしてみると、似通った点も幾つかありますね。
『ソードフィッシュ』はド派手な映像とスケールで見せるアクションものなのに対して
こっちは一応定番のカーチェイスが盛り込まれていたりするものの、あくまでじわじわ迫るサスペンスだなといった印象でした。
あっち寄りの人達が言う台詞って皆同じような。
「戦争では罪のない人々が大勢死ぬ。子供だって死ぬ。
真の国家の平和を実現する為には、多少の犠牲を払うことだって止むを得ないんじゃないか」
この映画に興味を持ったきっかけは政治学の授業で紹介されたからなのですが、
この手の話は米国史や政治学に明るければ倍以上に面白さが増すのでしょうねえ。
「国家」という概念が、自国の政治にもロクに興味を持たない日本人の感覚ではピンとこないかも知れませんが
あちらの人々にしてみれば現在の国家とはそういった多くの犠牲の上に成り立っているという意識がずっと強いのだろうなぁと思います。
お約束のアメリカ映画に飽きた時にはこんなサスペンスはいかがでしょう。
見た目の派手さはないものの、恐らくよくあるサイコスリラーのようなものだと思って手に取った人にしてみれば
予想外の規模の大きさで描かれている、いい意味で期待を裏切られる作品だと思います。
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余談ですが、これのタイトルパクリと思われるものに『
隣人は密かに笑う』というテレビドラマがありましたね。
最初私はこれと混同して探していました(笑)
内容は恐らく全く関係ないでしょうが。
紛らわしいってば!
『ソードフィッシュ』の話が出たので主演のヒュー・ジャックマン繋がりという事で一言付け加えると、
以前から観たかった『
ヴァン・ヘルシング』はDVD待ちの予定です。
ヒュー・ジャックマンの裸体を見たい方は『ソードフィッシュ』も一見の価値アリです(どんな勧め方ですか)。