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評価:
山本 文緒 角川書店 ¥ 460 (1998-11) コメント:様々な職で働く女性の悩みや喜びを描いた、読むと元気が湧いてくる短編集。ドラマ「泣かないと決めた日」とは無関係です(笑) |
大正五年八月廿五日朝 一の宮町海岸一宮館にて文ちゃん。
僕は、まだこの海岸で、本を読んだり原稿を書いたりして 暮らしてゐます。
何時頃 うちへかへるか それはまだ はっきりわかりません。
が、うちへ帰ってからは 文ちゃんに かう云う手紙を書く機会が
なくなると思ひますから 奮発して 一つ長いのを書きます
ひるまは 仕事をしたり泳いだりしてゐるので、忘れてゐますが
夕方や夜は 東京がこひしくなります。
さうして 早く又 あのあかりの多い にぎやかな通りを歩きたいと思ひます。
しかし、東京がこひしくなると云ふのは、
東京の町がこひしくなるばかりではありません。
東京にゐる人もこひしくなるのです。
さう云う時に 僕は時々 文ちゃんの事を思ひ出します。
文ちゃんを貰ひたいと云ふ事を、僕が兄さんに話してから 何年になるでせう。
(こんな事を 文ちゃんにあげる手紙に書いていいものかどうか知りません)貰ひたい理由は たった一つあるきりです。
さうして その理由は僕は 文ちゃんが好きだと云ふ事です。
勿論昔から 好きでした。今でも 好きです。その外に何も理由はありません。
僕は 世間の人のやうに結婚と云ふ事と
いろいろな生活上の便宜と云ふ事とを一つにして考へる事の出来ない人間です。
ですから これだけの理由で 兄さんに 文ちゃんを頂けるなら頂きたいと云ひました。
さうして それは頂くとも頂かないとも
文ちゃんの考へ一つで きまらなければならないと云ひました。僕は 今でも 兄さんに話した時の通りな心もちでゐます。
世間では 僕の考へ方を 何と笑つてもかまひません。
世間の人間は いい加減な見合ひと いい加減な身元しらべとで
造作なく結婚してゐます。僕には それが出来ません。
その出来ない点で 世間より僕の方が 余程高等だとうぬぼれてゐます。兎に角 僕が文ちゃんを貰ふか貰はないかと云ふ事は
全く文ちゃん次第で きまる事なのです。
僕から云へば 勿論 承知して頂きたいのには違ひありません。
しかし 一分一厘でも 文ちゃんの考へを 無理に 脅かすやうな事があっては
文ちゃん自身にも 文ちゃんのお母さまやお兄さんにも 僕がすまない事になります。
ですから 文ちゃんは 完く自由に 自分でどっちともきめなければいけません。
万一 後悔するやうな事があっては 大へんです。僕のやってゐる商売は 今の日本で 一番金にならない商売です。
その上 僕自身も 碌に金はありません。
ですから 生活の程度から云へば 何時までたっても知れたものです。
それから 僕は からだも あたまもあまり上等に出来上がってゐません。
(あたまの方は それでも まだ少しは自信があります。)
うちには 父、母、叔母と、としよりが三人ゐます。それでよければ来て下さい。
僕には 文ちゃん自身の口から かざり気のない返事を聞きたいと思ってゐます。
繰返して書きますが、理由は一つしかありません。
僕は文ちゃんが好きです。それでよければ来て下さい。この手紙は 人に見せても見せなくても 文ちゃんの自由です。
一の宮は もう秋らしくなりました。
木槿の葉がしぼみかかったり 弘法麦の穂がこげ茶色になったりしてゐるのを見ると
心細い気がします。
僕がここにゐる間に 書く暇と書く気とがあったら もう一度手紙を書いて下さい。
「暇と気とがあったら」です。書かなくってもかまひません。
が 書いて頂ければ 尚 うれしいだらうと思ひます。これでやめます 皆さまによろしく
芥川龍之介
「結末も知らぬまま人生と同時進行で未完成の自伝を書き続け、
縁者と共有していく体験は、まったく新しい愉しみです。
この期待と不安をはらんだブログ道の営みこそ、身心の若さと
輝きを保つ原動力です。ブログ道が、縁者と自分、世界と自分
との結びつきを、最後の一瞬まで実感できる生命線ともなるでしょう」
自分はクワイ=ガンに嫉妬しているわけじゃない、アナキンは自分に言い聞かせた。
そうじゃない。自分だってクワイ=ガンが大好きだった。でも、マスターの心がほかのものに引かれて自分のほうに向いてくれないときには、痛みにも似たものを感じ、気がふさいでしまうのだ。
あっ――電子回路だ、ほとんど無傷じゃないか。
おっ、ここにはハイドロスパナの部品がある。
あれは、モチヴェーター基盤じゃないのか?
くそっ、こんなに背が高くなきゃいいのに――アナキンは思った。
「あいつが悪いんだ!」
アナキンとフェラスは、同時に相手を非難した。
「あの人は偉大なジェダイ騎士だ。でも、おまえのことになると、おまえを育ててきた特別な感情が先に立って、おまえをちゃんと見ることができないんだ。
ぼくには見えるぞ。ぼくは見続ける。ずっとおまえをしっかり見ているからな、アナキン・スカイウォーカー」
――ぼくもおまえのことを見続けるからな、フェラス。そして、もしぼくたちが戦うことになったら、勝つのはこのぼくだ。
(「冒険のはじまり」より)
14歳のジェダイ修行生アナキン・スカイウォーカーは、厳しい訓練や任務に日々はげんでいる。彼の師であるオビ=ワン・ケノービは、そんなアナキンの成長を見守りその優秀さを喜んでいるが、ひとつだけ心配があった。それは、抜きんでた才能のせいか、アナキンには心を許せる仲間がいないことだ。しかし、任務として訪れた惑星で、アナキンはオビ=ワンからはなれ、ほかの修行生たちと協力することを学ばなければならなくなり―。
「とても言葉にはできないほど、きみが恋しい。ぼくの心はきみへの愛であふれている。最愛のだれよりもやさしい…」
「愛しいきみ、きみはいま、ぼくと一緒にいる。ぼくはきみのあたたかい息をほおに感じ、かんばしい髪の香りをかぐことができる。寄りそうきみの着ている服がぼくの体に触れてくる……(以下略)」
彼はこの旅のあいだ何度も、自分の強力なフォースを使って、パドメの生活をのぞき込みたい衝動に駆られた。
手紙を書き終わり、読み返すころには、熱いかたまりがのどをふさいでいた。(中略)
アナキンは首を振り、微笑した。
「ぼくがこれを書いたなんて、信じられないな」
目の隅にたまった涙を指先で払うと、周囲を見まわした。